DXを進めたいが、社内に推進できる人がいない。
この悩みは、ツールや予算の問題より根が深いものです。
外部の専門家を連れてくれば知識は補えますが、社内が動くかどうかは別の話です。
人は正論では動きません。社内から推進し、少しずつ味方を増やしていくしかありません。
この記事では、DX人材を社内で育てるための、人選・体制・育て方を整理します。

DX人材と聞くと、プログラミングやデータ分析ができる人を思い浮かべるかもしれません。
しかし、中小企業に必要なのは技術者ではありません。
業務を理解したうえで、新しいやり方を決め、社内を動かして定着させる人です。
技術は外部や周囲から補えますが、この役割は社内の人にしか担えません。
執筆者は、ある企業で全社横断のDX・生成AI活用を主導する中で、推進役を社内で育ててきました。
その経験から、人選で最も重視すべきだと考えているのは、次の一点です。
DXの推進は、うまくいかないことの連続です。
ツールが思った通りに動かない、現場から反発を受ける、効果がすぐには出ない。
このとき、変化を負担と感じる人は止まります。
新しいことをやること自体を、チャレンジとして楽しめる人でなければ続きません。
ITに詳しいか、若手かベテランか。
こうした条件は、二の次でかまいません。
知識は後から身につきます。
しかし、変化を楽しめるかどうかは、後から変えるのが難しい部分です。
姿勢で選び、知識は育てる。この順番を間違えないでください。
推進役は、現場の業務の流れを理解している必要があります。
何が手間になっていて、どこに判断が集中しているか。
これが分かっていないと、現場に受け入れられる変え方を設計できません。
社内で育てることの最大の利点は、ここにあります。

人を選んでも、体制が整っていなければ進みません。
執筆者の経験では、次の2つが揃わないと、どれだけ優秀な人でも動けませんでした。
DXの推進を、通常業務の片手間でやらせると、まず進みません。
日々の業務が優先され、推進は後回しになります。
専任の担当者を置く。難しければ、少なくとも責任者を一人に決める。
「みんなで進める」は、誰も進めないのと同じです。
専任にできない場合でも、業務時間の一定割合を推進に充てることを、上司と合意しておく必要があります。
もう一つの条件は、担当者の上にいる部門トップの姿勢です。
担当者に裁量を認めない、やり方の変更を承認しない、そもそもDXに乗り気でない。
こうなると、部門トップが上限(キャップ)になり、担当者がどれだけ動いても進みません。
担当者を任命する前に、その上司がどこまで裁量を認めるかを決めておいてください。
これが決まっていない任命は、担当者に無理を強いるだけになります。
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外部から専門家を採用する、コンサルタントに入ってもらう。
もちろん、これらは有効な手段です。知識や経験は、外から補うのが早い。
しかし、執筆者は推進の中心は社内で育てるべきだと考えています。
外部の専門家が示す方法は、多くの場合正しい。
それでも、現場は動きません。
「自分たちのことを分かっていない人に言われても」という感情が先に立つからです。
正しさだけでは、人は動かない。
これは、DXに限らず組織を変えるときの前提です。
社内の人が小さく始め、効果を見せ、隣の人を巻き込む。
最初は一人でも、「あの人がやっているなら」と二人、三人と増えていきます。
雪だるまのように、少しずつ大きくなっていく。
時間はかかりますが、こうして広がった変化は定着します。
外部の力は、この雪だるまの核を作る段階で、知識や進め方を補う役割として使うのが効果的です。

最初から全社の課題を任せないでください。
手間が大きく、関わる人が少ない業務を一つ選び、改善を任せます。
成功体験が、次に進む力になります。
新しいツールや仕組みは、使い倒さないと分かりません。
どこまでできて、どこからできないか。
担当者自身が試し、失敗し、確かめる時間を確保してください。
この時間を削ると、表面的な知識しか身につきません。
担当者が見つけた使い方や成果を、社内に発信する場を定期的に設けます。
伝えることで担当者自身の理解が深まり、周囲に味方が増えます。
雪だるまを大きくするのは、この繰り返しです。
社内で進めながら、足りない知識は外部から補います。
セミナー、専門家との壁打ち、他社事例。
外部の知識は、社内で考えた進め方を検証し、精度を上げるために使ってください。
一人の担当者に頼り続けると、その人が異動や退職をした瞬間に止まります。
担当者が安定して動けるようになったら、次の推進役を育てる役割も担ってもらいます。
推進役が複数いる状態が、DXが組織に根づいた状態です。

「詳しそうだから」という理由で任せ、体制も裁量も与えない。
これでは、担当者が孤立して終わります。
任命と同時に、専任化と裁量の範囲を決めてください。
本業の合間にできる仕事ではありません。
時間を確保せずに成果だけ求めると、担当者は疲弊し、推進は止まります。
外部の専門家が作った仕組みは、専門家がいなくなると動かなくなります。
外部は補助。社内に推進の中心を置くことが前提です。
雪だるまは、最初は小さい。
数ヶ月で全社が変わることはありません。
小さな成果を認め、続けさせることが、経営側の役割です。

会社の規模や対象業務によって異なりますが、一人の担当者が小さな業務で成果を出し、周囲を巻き込み始めるまでには、ある程度まとまった期間が必要です。
数ヶ月単位ではなく、年単位で見る前提で、途中の小さな成果を評価してください。
これまでに、新しいやり方を自分から試したことがあるか、変化があったときにどう反応したかを振り返ってみてください。
ITの知識より、変化を前向きに受け止める姿勢があるかどうかが判断の軸になります。
担当者を任命する前に、経営層から部門トップへ、DXの目的と担当者の裁量の範囲を明確に伝える必要があります。
部門トップの理解がないまま担当者だけを動かすと、担当者が板挟みになるだけです。
DX人材の育成は、技術を教えることではありません。
変化を恐れず新しいことを楽しめる人を選び、専任か責任者として位置づけ、部門トップが裁量を認める。
そのうえで、小さな業務から始めさせ、使い倒させ、伝える場を作る。
人は正論では動かない。社内から推進し、雪だるまのように広げていくことが、遠回りに見えて最も確実な道です。
まずは、社内で「新しいことを面白がっている人」が誰かを思い浮かべてみてください。
その人が、最初の候補です。
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